大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成2年(行ウ)8号 判決

原告

株式会社文祥堂

右代表者代表取締役

佐藤克夫

右訴訟代理人弁護士

河村貞二

被告

大阪府地方労働委員会

右代表者会長

清木尚芳

右訴訟代理人弁護士

寺浦英太郎

右指定代理人

中田晃由

北村元伸

加藤敏夫

谷口博良

被告補助参加人

総評全国一般大阪地連文祥堂労働組合大阪支部

右代表者支部長

尾崎勲

右訴訟代理人弁護士

村田喬

主文

一  被告が平成二年一月二三日発した別紙一の救済命令主文第一項を取り消す。

二  訴訟費用は被告、参加費用は被告補助参加人の各負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告は東京銀座に本店、大阪市他数か所に支店を置き、印刷事業、輸入事務機の販売代理等を行っている。

(二) 原告の従業員は総評全国一般文祥堂労働組合を組織し、被告補助参加人は大阪支店従業員が加入する同組合の下部組織である。

2  昭和六三年五月一一日付救済命令(以下、第一次救済命令という)

(一) 被告は原告に対し、同日、別紙二の第一次救済命令を発した。

(二) 原告は、第一次救済命令が命じた協定書の作成を拒否し、同日大阪地方裁判所に対し、右救済命令の取消訴訟を提起し、同地裁は、平成二年一〇月、右救済命令を取消し、被告補助参加人は控訴した。

3  平成二年一月二三日付救済命令(以下、本件救済命令という)

(一) 被告補助参加人は原告に対し、昭和六三年五月一九日及び同年七月二六日の両日、第一次救済命令の命じた協定書の作成及び大阪支店営業第三課の退職者の後任補充問題につき、団交を要求した(証拠略)。

(二) 右団交は、同年六月、七月、八月にわたり三回行われたが、後任補充問題について、原告は大阪支店業務課員の配転を、被告補助参加人は新規採用を主張し、合意に至らず、又、原告は右協定書の作成を拒否した。

被告補助参加人は同年八月二二日本件救済命令の申立をした。

(三) 原告は、平成元年八月一日、大阪支店営業第一課員を第三課に配転し、次いで、同年一二月一日、同月末付同課退職者の後任を新規採用し、同課の人員補充問題は解決した。

(四) 被告は、平成二年一月二七日、(一)記載の人員補充及び協定書作成に関し、別紙一の本件救済命令を発した。

二  争点

1  訴えの利益

(一) 被告補助参加人

大阪支店営業第三課の人員補充問題は解決済であるから、本件救済命令の人員補充に関する部分の取消を求める訴えの利益はない。

(二) 原告

本件救済命令の人員補充に関する部分は、右問題が解決済であることを看過して発せられたのであるから違法であり、取り消されるべきである。

2  当事者適格

原告

被告補助参加人は本部組合の構成部分(組織単位)にすぎない一支部であり、規約を有し、支部長の代表権等があるとしても、それは本部組合によって授権されたにすぎないから、労組法二条、五条二項各所定の要件に欠け、救済命令申立の当事者適格を有しない。

3  人員補充問題

(一) 原告

〈1〉 被告補助参加人は、原告の申し入れた大阪支店営業第三課の退職者の後任補充問題に関する団交、協議を、同支店の存続発展問題が先決であるとして、自ら拒否した。

〈2〉 大阪支店営業第三課の人員補充問題は解決済であり、原告は、平成元年九月二二日、被告に右事実を伝えた。

〈3〉 したがって、本件救済命令が右人員補充問題に関する団交を命じたのは違法であり、取消を免れない。

(二) 被告補助参加人

大阪支店営業第三課の退職者の後任補充問題は同支店の存続発展問題と密接不可分の関係にあり、それ故、被告補助参加人は、右人員補充は同支店の存続及び雇用保障の観点から、新規採用によってなされることを要求していたのであり、被告補助参加人が人員補充問題に関する団交、協議を拒否したことはない。

4  協定書の作成

(一) 原告

〈1〉 原告と被告補助参加人は第一次救済命令が命じた協定書の作成合意をしていないから右命令は誤りであり、原告は右命令の取消訴訟を提起している。

〈2〉 第一次救済命令は、原告に対し、一義的に協定書の作成を命じているのであり、本件救済命令において、更に、右命令の履行に関する団交を命じることは、特段の事情のない限り、屋上屋を重ねるもの(改めて、団交によって決すべき事項はない)で失当である(労組法二七条八項、三二条参照)。

〈3〉 したがって、本件救済命令が、原告に対し、右協定書作成に関する団交を命じたのは違法であり、取消を免れない。

(二) 被告補助参加人

原告は第一次救済命令を履行する義務を負い、右救済命令取消訴訟の提起は勿論、労組法上、右救済命令の履行確保の手段があること等は原告において右義務履行のための団交を拒否する正当理由とはなり得ない。

第三判断

一  当事者適格

被告補助参加人は、本部組合の下部組織たる支部であるが、独自の規約、機関、財政基盤を有し、本部組合から、自主的に運営できる事項につき独立した処理権限、団交権を承認され、原告も、多数回にわたり、被告補助参加人と、大阪支店に関する事項等につき団交を行なったことが認められ(証拠略)、右事実に照らすと、被告補助参加人は労組法二条、五条所定の労働組合たる要件に欠けるところはない。

したがって、原告の主張は失当である。

二  人員補充問題

1  取消(違法)原因

本件救済命令発令時において、原告と被告補助参加人間の人員補充問題が解決済であったことは前記認定のとおりである。そうすると、原告が、右問題について、被告補助参加人と団交すべき余地はないのであるから、本件救済命令の人員補充に関する部分は違法であり、取消を免れない。

2  訴えの利益

本件救済命令の右取消原因は命令発令前に存したのであり、発令後に生じた事情の変更の場合と異なるから、訴えの利益は肯定されるべきである。

三  協定書の作成

第一次救済命令は、原告に対し、一義的に協定書の作成を命じており、その履行は労組法二七条八項、三二条によって確保されるべきであり、右履行について、改めて団交を命ずべき格別の事情は認められない。したがって、本件救済命令中、第一次救済命令の履行に関する部分は不相当というべきであるから、取消を免れない。

四  よって、原告の請求は理由がある。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 岩佐真寿美 裁判官市村弘は転任のため署名、押印できない。裁判長裁判官 蒲原範明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例